「コットン」と聞くと、天然素材からできている肌に優しい繊維というイメージがありますよね。
実際、赤ちゃんの肌着やタオルなど、直接肌に触れるものに多く使用されています。
更に「オーガニックコットン」となると、手間ひまかけて育てられた肌にも環境にも優しい繊維というイメージを持たれるのではないでしょうか。では、オーガニックコットンと一般に使われているコットンとでは、何が違うのでしょう。
オーガニックコットンとコットン
オーガニックコットンとは、環境や生物に影響のある農薬や化学肥料等の化学物質を2〜3年以上全く使用しない土壌で、益虫やハーブを植えるなど、昔ながらの有機栽培を使用し無農薬で育てたコットンのことです。
また、コットン製品をつくる段階においても、塩素系漂白剤などの化学薬品は使わず、天然のワックスやデンプンなどで代用しています。また、使用可能な染料も限られています。
一方、コットンの栽培には通常、たくさんの農薬や化学肥料が使用されています。
もしかすると、これまで持たれていたコットンのイメージからは想像し難いかも知れませんが、世界の農産物の中で農薬の使用量が一番多いといわれているのがコットンでなのです。
なんと、世界中で使用されている農薬の約25%が綿花栽培に使われているというほどです。
この背景には、綿花栽培に関する歴史的な背景や労働環境など様々な問題が潜んでいます。
ここまで聞くと、農薬や化学肥料を使って育ったコットンは危険で、オーガニックコットンは安全なイメージを受けますよね。
しかし、実際は、栽培方法に違いはあるものの綿花にはほとんど残留農薬はないため、品質の点からいうとコットンとオーガニックコットンには大きな違いはないといわれています。
それでは、なぜ、コストや手間ひまがかかるオーガニックコットンが、世界中で注目されてきているのでしょうか。
それは、「地球環境と労働環境を守るため」という大きな意義を持っています。
私達の生活の中にオーガニックコットンを取り入れていくことが、どのようなことに繋がるのか、一緒に考えていきましょう。
綿花栽培の歴史と三大生産国
先ずは、コットンはどこで多くつくられているのかを見ていきましょう。
2017年時点での綿花の生産量を国別でみると、以下となります。
- 1位 インド:18,530,000トン
- 2位 中国:17,148,459トン
- 3位 アメリカ合衆国:12,000,000トン
- 4位 パキスタン:5,700,300トン
生産量第一位のインドは、オーガニックコットンの生産量も世界トップです。
その後に中国・アメリカ合衆国と続き、この3カ国が綿花の主要産地となります。
では、どのような経過を経て現在のコットン栽培が行われるようになったのでしょうか。
オーガニックコットンが注目されるようになった要因はなぜか?という視点でコットン栽培の歴史を見て参りましょう。
綿花栽培の起源については、文献によってまちまちではありますが、約5000年前(約8000年前と言う説もあります)といわれています。
発祥地はインドで、モヘンジョ・ダロの遺跡から紀元前2500年のコットンが発見されています。
コットンを作る技術はインダス文明が起源といわれていて、インド産の綿布は長い間インドの特産品でした。
16世紀以降インドの綿はアラビア商人によってヨーロッパにもたらされ、17世紀にはイギリス東インド会社の主要な輸入品となりました。
インド産の綿花を使用した綿工業がイギリスの産業革命の原動力となったのです。
イギリスで紡績機械の改良が進み、綿織物生産が爆発的に増加する中、アメリカ大陸でも綿花の栽培が急速に広がっていきました。
1793年にアメリカのホイットニーが綿操り機を発明すると、アメリカ南部の綿花プランテーションで、黒人奴隷による綿花の生産が増大します。
コットンがアメリカの最大の輸出産業となるにつれ、黒人奴隷も急増し、1855年には約320万人もの黒人奴隷がコットンやタバコの農園で働いていたそうです。
奴隷制度による極悪な労働条件の下、イギリスへの主要な輸出品となった綿花でしたが、アメリカ北部の工業が発展していく中で、黒人奴隷制に対する批判が強まり始めます。
また、北部の産業資本家が保護貿易を主張したのに対し、南部の綿花農場主は綿花輸出のため自由貿易を主張しました。
このような動きの中、アメリカ北部と南部の対立が激しくなり、ついに1861年南北戦争が勃発したのです。
ご存知の通り、南北戦争で北部が勝利した後、黒人奴隷制は禁止となります。
南北戦争の爪痕により、アメリカの綿花栽培は減少し、南部の綿花プランテーションは衰退に向かいます。
そして、世界の綿花栽培の主力は、西アフリカや中国へ移っていきました。
その後、アメリカの綿花産業はどうなったのでしょう。
結果は、これまでの奴隷制度による綿花プランテーションから、奴隷を必要としない機械化と大量の農薬を使用する栽培方法により、衰退していた綿花栽培は救済されることになったのです。
今日のコットの栽培面積は世界の農地の3%以下ですが、使用している農薬の量は全世界のその消費量の約1/4を占めています。
このような歴史的背景から、コットンはどんな作物よりも大量に農薬が使用される天然繊維となったのです。
オーガニックコットンのメリット
従来のコットンの特徴の一つに「安価である」ということがあります。
それは、農薬や化学肥料を多量に使用する栽培方法や、安い賃金による労働環境が一因となっているからです。
たしかに、オーガニックコットンは、これまでのコットンと比べると値が張るものが多いというのが事実です。
一般のコットンより価格が高いオーガニックコットンを選択する価値はどこにあるのでしょうか。
肌に優しく安心して使える
オーガニックコットンの栽培には、生産者の手間ひまと愛情がこめられています。
通常のコットン栽培では生産効率を上げるために、種まき時の化学肥料や殺菌剤、雑草除去のための除草剤、害虫防止のための殺虫剤、収穫時の落ち葉剤など、多くの化学物質が使用されています。
しかし、オーガニックコットンは、栽培効率より人と環境のために、化学物質を全く使用せず、有機肥料や益虫、ハーブなど、自然の力でコットン栽培を行います。
コストも労力も計り知れないことが容易に想像できるでしょう。
また、栽培時はもちろん加工時にも人や環境に有害な化学物質は使用していないため、肌にとても優しい素材となります。
アレルギー体質の人や、赤ちゃん・小さなお子様などにも安心して使用することができる、人の肌にも心にも優しいコットンです。
地球環境に優しい
農薬や化学肥料を使い続けていると、地下水は汚染され、もともと土壌にいる微生物は生息できなくなってしまいます。
微生物は生態系の中の「分解者」といわれているように、さまざまな役目を果たす地球にとってとても重要な存在です。
その微生物がいなくなれば、土壌は痩せこけ作物を育てることができなくなることはもちろん、地球の生態系は破綻してしまうことでしょう。
また、製造時に使用する漂白剤や化学染料は、河川や地下水を汚染します。
その結果、作物を育てることができなくなるだけでなく、魚や海藻など水生生物にも影響が出て、多くの生き物が生存できなくなってしまいます。
オーガニックコットンを選択するということは、このような地球の生態系の破壊を防ぐことに加え、農薬や化学肥料を使うことで発生する二酸化炭素の発生を防ぐことにも繋がります。
このように、両方向から、地球にあたえる負荷を減らすことができるのです。
フェアトレードに貢献
現在、コットン産業には約3億人の人が従事しているといわれています。
そして、その生産量の約80%がインドや中国、ウズベキスタンなどの発展途上国といわれている地域の人々によって生産されています。
コットン栽培に使用されている農薬には毒性の高いものが多く、世界保健機関(WHO)の調査では、全世界で年間300万人もの人々が健康を害し、2万人が死亡しているといわれています。
また、農薬や肥料、遺伝子組み換えのコットン種の購入のために膨大な借金を抱える農家も多くあります。
貧しさから、子どもたちは学校に通うことができず幼い頃からコットン栽培で労働を余儀なくされています。
このような従来のコットン栽培の環境を、オーガニック農法に転換することで、農家の経済的負担を削減することができます。
また、オーガニックコットンの認証制度には、不当に労働が搾取されないよう公正取引のガイドライン(フェアトレード)が盛り込まれています。オーガニックコットンを栽培することは、フェアトレードによる貧困問題への解決と強く結びついています。
そしてオーガニックコットン製品を選択することは、発展途上国の自立支援にも繋がっているのです。
コットンに適した製品
コットンはいくつかの特徴を持っています。代表的な特徴は以下の3点です。
1.柔らかく手触りの良い肌触り
2.吸湿性・放湿性に優れ、加工方法により保温性も持つ
3.水やアルカリに強く、洗濯しやすい
いろいろな製品へ加工が可能なコットンですが、コットンの持つ特徴を活かし、相性の良い製品はどのようなものがあるのでしょうか。
オーガニックコットンを使うことコットンのメリットを活かすことのできる製品をピックアップします。
タオル
上記の3つの特徴からも、タオルはとてもコットンに適した製品です。
生産量日本一、最高品質のタオルとして認知されている、愛媛県今治市の今治タオルにもコットンが使われていて、オーガニックコットンからできたタオルも販売されています。
織り方によって様々な風合いが出せるのもコットンの得意とするところ。
ふかふかふわふわ触感のパイル地、ビロードのようになめらかなシャーリング地、肌当たりがやわらかガーゼ地などなど、コットンの特徴を活かし、様々な製品が開発・販売されています。
繊維の万能選手といわれるコットン、自分好みのコットンタオルを探してみるのも面白そうですね。
【今治タオル公式サイト】
https://www.imabari-kinsei.com/organic/
アンダーウェア
タオルと同様、コットンの特徴を活かすアンダーウェア(肌着)。
肌を清潔に保ち、温度変化から体を守るためには、「ムレにくい」「肌触りが良い」「保温性がある」などの条件が必要です。
これらを全て網羅できるのがコットン。
アンダーウェアのメーカーとして歴史の長い「GUNZE」もこだわりを持ったコットンアンダーウェアを開発しています。
オーガニックコットンを使用したアンダーウェアも販売されています。
【GUNZE公式サイト】
https://www.gunze.jp/store/brand/thegunze/organic
ランジェリー
コットンの肌触りを活かしたランジェリーもオススメです。
女性にとっても男性にとっても、直接肌に触れるランジェリー。
吸湿性・放湿性に優れ、適度な伸縮性もあるコットンはとても相性がよい素材です。
最近は、ファッション性にもこだわった、オシャレで心ウキウキするようなオーガニックコットンランジェリーも増えてきています。
オーガニック先進国から素材とデザインにこだわったランジェリーを扱っている「OLINGE」は、オーガニックランジェリーのセレクトショップです。
【OLINGE公式サイト】
https://olinge.com/
デニム
少し意外かもしれませんが、デニム生地もコットンからできています。
硬くて重いイメージですが、コットン100%のデニムは、履き込むことで身体に馴染んで風合いが増してきます。
耐久性もあり、劣化しにくいためコレクターの間で人気の「ヴィンテージジーンズ」という数百万円もするような高級シーンズが存在するんですね。
また、「染めやすい」というコットンの特徴からデニム特有のインディゴブルーやグランジ色も実現できます。
パタゴニアでは、オーガニックコットン100%素材で作られたデニムで縫製もフェアトレードの商品が販売されています。
【パタゴニア公式サイト】
https://www.patagonia.jp/denim.html
最後に
オーガニックコットンの生産量はまだまだ低く、その割合は世界のコットン生産量の1%にも満たない数字です。
消費者の立場からすると、価格の高いオーガニックコットン選択することは、デメリットであるかもしれません。
しかし、オーガニックコットンを増やしていくことで、地球環境を守り、コットン栽培に関わる人たちの生活を守り、巡り巡って私達の健康を守ることに繋がるのです。
先ずは、身近なものからオーガニックコットンを選んでみては如何でしょう。
参考
https://www.y-history.net/appendix/appendix-list.html
https://www.globalnote.jp/post-5785.html
http://joca.gr.jp/
“オーガニックコットンとコットンの違い〜その特徴を活かす製品とは〜” への1件のフィードバック